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老人ホームからの大脱走

老人ホームからの大脱走

介護・福祉


2018年04月23日

前回の記事
意に沿わない老人ホーム入居

認知症状が出始めたNさん

認知症状が出始めたNさんは、以前より多少接しやすくなったと言えました。
職員とは会話するようになったのです。
明治生まれで男尊女卑を地で行っていたNさんは、認知症状が進まれたからなのか環境に慣れてこられたのか分かりませんが(おそらくどちらもが要因でしょうが)、女性職員ともそれなりに話されるようになりました。
小学校に勤めておられた頃に戻ったような日もあり、そんな日は職員のことも部下の教師に見えていたようです。
私たちも少しずつNさんとの接し方が分かってきた、ということもあったと思います。色々な声掛けの仕方を試しましたが、校長先生としてのNさんを褒めてお願いするのが一番成功率が高かったような気がします。
それでも認知症状は進み、失禁の回数や突然怒り出して大声を出すなどということも増えてきて、介護チームはNさんのご家族に認知症フロアへの移動を勧めました。しかしご家族の返答はNOでした。面会に来て話をしたらしっかりしているのに、認知症フロアになんていくのはおかしいと。
家族の同意が得られないのに居室変更はできません。
他の入居者からの大きな苦情は出ていなかったので、様子をみようということになりました。

久しぶりの家族とのひと時の後で

それからしばらく経った頃だったと思います。
法事があるからということで、長男夫婦がNさんを外出の為に迎えにきました。
Nさんはとても喜んで、ご機嫌で皆に手を振り出かけていきました。
戻ってきたNさんは、久々の外出で疲れ切った様子でした。ウトウトされたまま車椅子に乗って帰ってこられ、お部屋でそのまま朝まで眠られたのです。
翌朝もまだ、ぼんやりとした様子だったということでした。
その日、私はNさんが入居しているフロアとは別フロアでの夜勤入りでした。夜勤者は全フロアの申し送りを聞くことになっているので、今日のNさんは眠そうで終日ウトウトしていたという話を聞いて、「Nさん今夜は眠らないかもよ?」なんて笑っていたのです。
午前1時40分を過ぎた頃でした。
Nさんのフロアの夜勤者が駆け込んできたのです。
「Nさんが、いなくなっちゃいました」と。

ホーム内を大捜索

夜勤の仕事をする者と捜索する者に分かれ、施設内の捜索が始まりました。どこかにいるはずだと、皆ホームの中を駆けまわって探しました。
どうやら職員がオムツ交換で出払っている間に、詰所の窓からバルコニーに出て、バルコニーから避難用の滑り台を使って外に出てしまわれたようだということが分かりました。
そこからは、警察に届け出て捜索されることとなりました。

午前5時にもうなるという頃に、Nさんが近くの川で見つかったと連絡がありました。家に帰ろうとして、橋が分からず川を渡ろうとしたとのことでした。
戻ってきたNさんは濡れて冷え切っていて、すぐにシャワー浴をしました。擦り傷だらけでしたが大きな怪我はなく、弱った様子で「寒い…」と震えながら呟くNさんにほっと息をつきました。

老人ホームからの大脱走01

夜勤者みんなで泣いた夜

大騒動の夜勤となり、長時間の残業を終えたところで、Nさんのフロアで夜勤をしていた職員の女の子が私達のところに「迷惑をかけてすみませんでした」と泣き腫らした目でやってきました。大変な時はお互い様ですし、Nさんのフロアはエスケープ対応階でもないのでアクシデントに近い出来事ですし、気にしないでね…みたいなことを皆で言ったと思います。
そうしたら当時二年目の新米介護職だった彼女が、ぼろぼろ泣き出しました。
ホーム長にめちゃくちゃ怒られたのだそうです。
あの家族は口うるさいのに、どうしてくれるんだ、と。訴えられたら負けるぞ、反省しろ、と。
当時のホームの夜勤は本当に過重労働だったので、私たちは疲弊しきっていました。
ごめんなさいを繰り返して泣く彼女が、ただただ可哀想で気付いたら夜勤者皆で号泣していました。
介護の仕事ってなんだろうって、泣きながら話しました。
鳴りやまないナースコールに走り回って対応して、認知症フロアを拒否した入居者が脱走して上司からは怒鳴りつけられて……。
Nさんの無事を良かったと思うより先に訴えることを視野にいれる家族の気持ちも、私には全く分かりませんでした。今もってして、分からないままですが。

 

次回「施設ぐらしも悪くない vol.13」に続きます。


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しいな みのり
介護福祉士・ケアマネージャー。特別養護老人ホームや病院の介護病棟・医療病棟、小規模多機能型居宅介護事業所での勤務経験を持つ。現在も子育てをしながら介護の現場で奮闘中。
ウチシルベ