パーキンソン病の幻覚症状と楽しく付き合う

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パーキンソン病の幻覚症状と楽しく付き合う

介護・福祉


2017年11月13日

パーキンソン病のSさん

今回はパーキンソン病だった人気者のSさんのお話をさせて頂きたいと思います。

当時ホームヘルパー2級(今の介護職員初任者研修)を取得して、介護の世界に入ったばかりの私にとっては「パーキンソン病」という病名はまだほとんと教科書の中のものでした。入職して、最初に紹介された時には、緊張して構えてしまっていた記憶があります。
そんな私にSさんはにこにこと笑って、「世話かけますけどよろしくね」と言って下さいました。小柄で細身の、少し野際陽子さんに似た雰囲気の可愛らしい方でした。

パーキンソン病といえば、トトトトッと前のめりになるような歩き方が特徴です。転倒リスクを考慮して、既にSさんは車いすを使用しておられました。フットレストを外して、足で車いすを漕ぐような形で自走されるのです。それでも入浴時やちょっとした外出の場面で手引き歩行で歩く時、小刻みに足が出る様子があり、介助の勉強をさせて頂きました。

パーキンソン病の特徴の一つとして、日によって調子が違うということがあります。
すんなりと廊下を車いす自走で朝食を食べに来てくださる日もあれば、お迎えに行かないとなかなか前に進めないような日もあって、落差の激しさを実感しました。
「今日はあかんなぁ」と言って、Sさんは困ったように笑っていました。
もちろん、笑っていられる日ばかりではありませんでした。いい日、悪い日、その調子の波に、一喜一憂される時もありました。
手の震えなどはその調子の上がり下がりが顕著で、悪い日はとても辛そうでした。「もう自分で動けんようになるんちゃうやろか」とお箸を持てない自分の震える手を見て、苦しそうに話しておられた姿が忘れられません。
はじめはしょんぼりとされる姿を見てなんとお声をかければ良いのかと、戸惑うばかりだった私も、半年もご一緒する頃には「前もそう言ってたけど、次の日には自分でごはん食べれてましたよ」と、笑って言えるようになりました。
「あんたらがそう言ってくれるなら、そうなんかね」と硬い表情でなんとか笑うSさんが、みんな大好きでした。

やがて幻覚症状が出るように

パーキンソン病の症状の一つである幻覚が見えだしたのは、私が入職して一年くらい経ってからだっと思います。
夜勤中にコールが鳴って訪室すると「そこの男の子にお菓子やって」とか「野良猫が迷い込んでる!追い出して!」と言われることが時々出てきました。前触れもなくやってくるその幻覚の訴えに対して、Sさんが傷つかないように否定しないでおこうと職員は演技力を身に着けていきました。
「男の子がいる」と言われれば、「その子のお母さんが探してたんですよ!さあ、お母さんのところに行こう」と子供の手を引くようにして部屋を出て行ってみたり。
「猫がいる」と言われれば、「待て待て~」と猫をおいかける素振りをして、猫にお引き取り願ったり。
うまくいく日があれば、「あんた信じてへんやろ」と睨まれたりする日もありましたが、私も他の職員もSさんの幻覚と楽しくお付き合いできていた気がします。
あれが、毎日一緒のご家族だったら、なかなか笑って楽しんでなんていられないと思います。月に数回の夜勤での出来事だから、Sさんの気持ちに寄り添おうとできたのではないかな……と介護士として思います。

最後は心臓の発作を起こして病院で亡くなったSさん。
亡くなった知らせを受けた夜、彼女が3年余りを生活した居室からは、数回エラーのコールが鳴りました。受話器を上げると雑音が聞こえてくるのです。
機械ですから、故障することもあるでしょう。
でも、その時は故障だとは思わなかったし、不思議と怖くもありませんでした。
「Sさんや」「Sさんが呼んではる」「来てくれはったんやなあ」とその日の夜勤職員みんなで泣きました。
今もまるでほんの少し前のことのように、忘れられない思い出です。


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しいな みのり
介護福祉士・ケアマネージャー。特別養護老人ホームや病院の介護病棟・医療病棟、小規模多機能型居宅介護事業所での勤務経験を持つ。現在も子育てをしながら介護の現場で奮闘中。
ウチシルベ